ネット上の掲示板や検索窓では、時折「怪我による事実上の引退」「メンタル崩壊」といった過激なワードが散見されます。しかし、現場の取材を通じて見えてくるのは、外野が無責任に貼り付けるレッテルとは全く異なるプロフェッショナルとしての冷徹な自己管理です。
桐生が2022年に下した休養宣言の背景には、持病である潰瘍性大腸炎の悪化リスクに加え、長年の「日本最速の看板」を背負い続けたことによる神経疲労とバーンアウト(燃え尽き症候群)の兆候がありました。走る直前に心拍数が異常に跳ね上がったり、スタートラインに立つことへの義務感ばかりが先行したりする状態は、一流アスリートのメンタルヘルスにおいて最も危険なシグナルです。
もしあの時点で無理に練習を継続していれば、選手生命を脅かす重篤な筋腱断裂や完全な精神的破綻を招いていた可能性は否定できません。「休む勇気」を持ったことこそが最大のファインプレーであり、ネットで囁かれたような「落ちぶれた末の離脱」という解釈は完全な的外れと言えます。