神格化を拒んだムハンマドの言動は、側近や妻たちの証言として驚くほど克明に記録されました。これがハディース(預言者の言行録)であり、それに基づく模範的な生き方をスンナ(慣行)と呼びます。歴史家たちの考証や公認ハディース集(『サヒーフ・アル=ブハーリー』『サヒーフ・ムスリム』など)を紐解くと、威圧的な支配者とは程遠い、極めて家庭的で謙虚な素顔が浮かび上がってきます。
妻アーイシャの証言によると、家庭内でのムハンマドは「自ら服のほころびを縫い、靴を修繕し、山羊の乳を搾るなど、普通の人間として家事を手伝っていた」と伝えられています。また、子どもたちを愛して膝の上に乗せて可愛がり、通りすがりの奴隷や貧民からの呼びかけにも真っ先に立ち止まって耳を傾ける気さくさを持っていました。
公私を問わず残された彼の言葉には、普遍的な人間愛と実践的な倫理観が凝縮されています。
「信徒の中で最も信仰が完全な者とは、最も人格が優れ、自分の家族に最も優しく接する者である」
「天国は母の足元にある」
「誰もが、自分自身のために望むことを他人のためにも望まない限り、真の信仰者とは言えない」
これらの名言は、部族社会特有の男尊女卑や強者至上主義が横行していた7世紀初頭のアラビアにおいて、極めて革新的な人権宣言でもありました。