配当水準の調整と並び、市場のボラティリティを極限まで高めた元凶が、USスチール買収の影響です。総額約2兆円規模という日本企業による海外M&Aとしても異例の大型ディールは、発表直後から米鉄鋼労組(USW)の強硬な反発や米大統領選に絡む政治的思惑に翻弄され続けました。
当時の記者会見で経営陣が語気を強めて「脱炭素化と電炉化が進む北米市場を押さえることこそが、10年後のグローバル覇権を決定づける」と力説した戦略的意義とは裏腹に、株式市場が突きつけた初期反応は冷酷でした。日本製鉄 株価急落の真相を探ると、買収に伴う巨額の資金調達による財務レバレッジの悪化、のれん代の減損リスク、そして対米外国投資委員会(CFIUS)の審査長期化がもたらす不透明感を、ヘッジファンド勢が一斉にショート(空売り)の口実にした構図が見えてきます。
取材に応じた大手信託銀行のシニアファンドマネージャーは、「米国拠点の刷新に必要な追加投資負担や、現地組合との労使協約の維持コストを考慮すると、短期的にはフリーキャッシュフローを大きく削る要因になり得る」と証言します。世界トップクラスの技術力を誇る日本製鉄であっても、地政学とポピュリズムが交錯する米国の製造業再編を完遂するには、想定以上の財務的体力が削られるという警戒感が、株価の上値を重くする重石となっています。