実際のビジネス現場において、この言葉はどのように受け止められ、どのようなトラブルを誘発しているのでしょうか。大手総合商社、ITメガベンチャー、製造メーカーの現役社員およびマネージャー層からの生々しいヒアリング調査を実施しました。
都内のITソリューション企業に勤務するシステムディレクター(30代男性)は、クライアントへの納期遅延連絡で手痛い失敗を経験したと語ります。
「突発的なインフラ障害が発生し、リリースが数日遅れる見込みとなった際、チャットツールで『弊社のリソース状況を鑑みても、納期の順延は致し方ない状況でございます』と送信してしまいました。直後にクライアントの役員から電話が入り、『なぜそちらが一方的に決定して諦めているのか。こちらは数千万円規模のプロモーションを組んでいるのに、その言い草は何事か』と激怒されました。『致し方ない』という言葉は、受け手にとっては【自分たちの努力不足を正当化する冷淡な開き直り】にしか聞こえなかったのだと痛感しました」
また、ネット上のQ&AサイトやSNSコミュニティでも、「上司から仕事の不備を指摘された際に『現在の工数では致し方ありません』と返したら叱責された」「取引先の担当者が『それは致し方ないですね』と言ってきたが、明らかに他人事のように感じて不快だった」という相談が絶えません。
言葉の額面上の意味が正しくとも、受け手の感情を逆撫でしてしまう典型例がこの語彙です。ビジネスでは「事実の伝達」と「相手の心情の受容」を同時に設計しなければならないというコミュニケーションの鉄則が如実に表れる部分です。