天然痘(Smallpox)は、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に分類される「痘瘡ウイルス(Variola virus)」を病原体とする感染症です。ウイルス粒子はレンガ状の特異な形態を持ち、二本鎖DNAをゲノムとする大型ウイルスで、環境中での抵抗力が非常に強いという際立った特徴を持っています。
天然痘の潜伏期間は通常7〜17日(平均10〜14日)と比較的長く、この期間中は自覚症状がなく、他者への感染性もほとんどありません。しかし、潜伏期間を過ぎると急激な体調異変に見舞われます。
臨床現場の記録によると、天然痘の初期症状は39〜40度に達する突発的な高熱、激しい頭痛、割れるような腰背部痛、そして強度の全身倦怠感から始まります。この前駆期が2〜4日続いた後、解熱傾向とともに口腔内や顔面、四肢の末端から特徴的な発疹が出現します。発疹は「紅斑(赤み)→ 丘疹(盛り上がり)→ 水疱(水ぶくれ)→ 膿疱(ウミを持つ)→ 痂皮(かさぶた)」という段階を極めて規則正しく辿り、顔面や手足に集中して多発するのが臨床上の大きな指標です。
主な天然痘の感染経路は、感染者の咳やくしゃみに含まれる飛沫を吸い込む「飛沫感染」および「濃厚接触によるエアロゾル感染」です。さらに、膿疱破綻時の浸出液や剥がれ落ちたかさぶた、ウイルスに汚染された寝具・衣服などを介した接触感染力も極めて高く、ウイルスは乾燥した環境下でも数週間から数か月にわたって感染性を維持する驚異的な耐久性を誇ります。