日本において「キャトルミューティレーション」という言葉が広く浸透したのは、1970年代後半から1980年代にかけて放送されたテレビのオカルト特番(矢追純一氏が手がけたUFOスペシャル番組など)がきっかけでした。ブラウン管越しに映し出される「血を一滴も残さずくり抜かれた牛」のショッキングな映像は、当時の視聴者に強烈なトラウマと知的好奇心を植え付けました。
しかし、日本国内における実際の報告例を検証すると、米国の状況とは大きく様相が異なります。北海道や東北地方の広大な放牧地で牛の変死体が発見された事例は存在するものの、地方自治体の家畜保健衛生所や獣医師による解剖によって、病死(鼓脹症や悪性中耳炎、肺炎など)と、それに続くキツネやカラスによる食害であることが即座に特定されています。
日本において米国のような集団パニックに発展しなかった理由は明白です。国土の狭い日本では放牧管理の目が隅々まで行き届いており、死体が何日も放置されてスカベンジャーに損壊されるケースが極めて稀だったためです。米国特有の「見渡す限りの無人放牧地で数日間放置された死体」という環境的要因こそが、怪異を生み出す温床でした。