歌詞の中に登場する伊豆の名所は、単なる観光地の羅列ではありません。女性の心理状態のグラデーションを描くための精緻な暗喩として配置されています。
1. 浄蓮の滝:激しい激情の噴出
冒頭に登場する「浄蓮の滝」は、激しく落下する水飛沫と深い滝壺を持ち、古くから女郎蜘蛛の伝説が残る場所です。「九十九(つづら)折り 浄蓮の滝」という歌い出しは、複雑にねじ曲がった二人の関係性と、抑えきれずに激流となって溢れ出す主人公の激しい情念を象徴しています。
2. 寒天橋:引き返せない運命の境界線
2番に登場する「寒天橋(かんてんばし)」は、かつて寒天の原料となるテングサを運ぶために使われたとされる山深い渓谷の木橋です。足元がすくむような高所と冷え切った空気感。この橋を渡る行為は、社会的な道徳や日常の世界へ戻る道を自ら断ち切る「不可逆の決断」を意味しています。
3. 天城隧道:暗黒と新生のトポロジー
そしてクライマックスを飾る「天城隧道(旧天城トンネル)」。明治38年に開通した日本最長の石造道路トンネルであり、国の重要文化財にも指定されています。冷たく薄暗い岩肌が続くこのトンネルは、二人を阻むこの世の世間体や障害を抜けるための漆黒の産道であり、抜け出した先には死か、あるいは二人だけの破滅的な成就しか存在しないことを示唆しています。