「呼吸の仕方が分からなくなる」。彼女が当時を振り返るとき、過酷な記憶として鮮明に語るのがこの感覚だ。ヘアメイクアーティストとして多忙を極めていた30代前半、過密スケジュールと周囲からの重圧がピークに達したある日、悲鳴を上げ始めたのは心ではなく身体だった。
突然の激しい動悸、手足の痺れ、そして襲いかかる強い不安感。芸能界や美容業界という華やかで競争の激しい世界に身を置くなかで、弱音を吐くことはプロ失格を意味するという強い思い込みが、彼女の症状をさらに拍車をかけた。本番直前まで控室で身体を震わせ、カメラのランプがついた瞬間に何事もなかったかのように振る舞う。その完璧主義な姿勢の陰で、肉体と精神の磨耗は限界を超えていたのだった。