本作の原作である半藤一利氏の『日本のいちばん長い日』(文藝春秋)は、当時まだ存命だった事件関係者や閣僚、将校たちへの徹底した直接取材によって編纂されたノンフィクションの金字塔です。文藝春秋の編集者だった半藤氏が「大宅壮一編」の名義で出版した背景には、敗戦直後の生々しい記憶が残る時代において、関係者の証言を可能な限り客観的かつ安全に世へ問う意図がありました。
史実と映画のあらすじを対比させると、脚色の妙が見えてきます。代表的な例が、横浜警備隊長・佐々木武雄大尉率いる国民神風隊による首相官邸焼き討ち事件です。映画では緊迫した暴動として劇的に描かれますが、実際の佐々木大尉は首相官邸に突入したものの鈴木首相不在を知り、放火した後に姿を消すなど、統制を欠いた混乱が実態でした。
また、劇中で描かれる閣議室の激論は、冷暖房もない猛暑の防空壕や官邸内で、軍服の襟元を汗で濡らしながら行われた実話そのままの光景です。国体護持(天皇制の維持)を巡って外相・東郷茂徳と阿南陸相が繰り広げた論争は、単なる主戦派と和平派の対立ではなく、「いかにして軍の暴発を防ぎつつ、無血で戦争を終わらせるか」という高度な政治的駆け引きであったことが歴史研究でも裏付けられています。