日本舞踊の師範や歌舞伎の現場を支える着付け師、呉服店の悉皆(しっかい)担当者への調査から見えてきたのは、「汚れは時間が経つほど指数関数的に落ちにくくなる」という冷徹な事実です。
現場のプロが口を揃えるのは、着物足袋のお手入れ方法における最重要ポイントは「脱いですぐの下処理」だという点です。舞台を終えた直後、または帰宅して足を脱いだその日のうちに、足裏部分だけでも固形石鹸をつけてサッと予備洗いしておくだけで、繊維の奥への油分定着を9割以上防ぐことができます。
また、秋祭りや神輿担ぎで泥だらけになった祭り足袋の泥汚れ落としの現場では、「絶対に濡らして擦らない」という共通の知恵が受け継がれています。泥は不溶性の微粒子であるため、濡らして擦ると微粒子が繊維の隙間に深く入り込み、二度と取れなくなります。天日やドライヤーの冷風で完全に泥を乾燥させてから、パンパンと叩いてブラシで砂粒を徹底的に落とし切ることが、現場で実践されている秘伝のリカバリー法です。