一般社会で最も混同されているのが「被告」と「被告人」の境界線だ。この二つは、適用される法体系も背負うリスクも根本から異なる。
民事訴訟法に基づく民事裁判では、金銭の貸借、契約不履行、離婚、交通事故の損害賠償などをめぐり、私人同士が権利を争う。ここで訴えられた側が「被告」であり、訴えた側は「原告」と呼ばれる。民事裁判の目的は個別の権利関係の確定や金銭的トラブルの解決にあり、刑務所への収監といった刑罰が科されることは構造上あり得ない。
一方、刑事訴訟法が規律する刑事裁判において、犯罪の嫌疑を受けて起訴された人物は法律上「被告人」と厳密に呼称される。法廷で被告人と対峙するのは私人ではなく、国家権力を代表して刑罰権を行使する検察官だ。有罪判決が下されれば、懲役や罰金などの刑事罰が科され、前科がつく。
マスメディアの報道で容疑者が起訴された際、「〇〇被告」という略称が慣用的に使われるケースが多い。この報道慣行こそが、「被告=犯罪者」という根強い社会的偏見を生み出す最大の温床となっている。民事の被告席に座ることは、決して犯罪に手を染めたことを意味しない。