昔からまことしやかに語られる「1匹見たら何匹いる?」という疑問に対し、害虫防除の専門機関やペストコントロール技術者の現場データは明確な答えを出しています。結論から言えば、見かけた個体の種類と繁殖形態によって危険度は180度異なります。
一般家庭で遭遇するゴキブリの代表格である「クロゴキブリ」と、飲食店や集合住宅に多い「チャバネゴキブリ」では、生態系が大きく異なります。クロゴキブリは屋外にも生息しており、成虫が外から飛来して一時的に卵を産み落としたり、窓サッシの隙間から幼虫が単独で迷い込んだりするケースが珍しくありません。つまり、クロゴキブリの幼虫が1匹いたからといって、100%の確率で室内に巨大なコロニー(巣)が形成されているとは限らないのです。
一方で、チャバネゴキブリの幼虫を見かけた場合は極めて危険なサインとなります。チャバネゴキブリは寒さに弱く、基本的に人間の生活圏である屋内でしか越冬・繁殖できません。雌は卵が孵化する直前まで「卵鞘(らんしょう)」と呼ばれる硬いカプセル状の卵を体につけて保護する習性があります。そのため、チャバネゴキブリの幼虫が室内にいた場合、それは「すでに室内で卵鞘が孵化し、周囲に数十匹単位の幼虫が散らばっている」動かぬ証拠です。1匹のチャバネ幼虫の背後には、30〜40匹の兄弟が同空間に潜んでいると考えるのが昆虫生理学的な事実です。