多くの人々がスタジオジブリのアニメーション映画『魔女の宅急便』のオープニング曲として記憶している『ルージュの伝言』ですが、歌詞の意味を深く読み解くと極めて生々しい男女の駆け引きが描かれています。主人公の少女(女性)は、浮気をやめない恋人に対して泣き寝入りするのではなく、驚くほど大胆でクレバーな行動に出ます。
物語の発端は、彼の部屋で見つけてしまった決定的な裏切りの証拠でした。激昂した主人公は、バスルームの鏡に鮮烈な赤いルージュ(口紅)で別れのメッセージを殴り書きし、そのまま部屋を飛び出して列車に乗り込みます。その向かう先は、実家ではなく「彼の母親(ママ)の家」です。
「あいつのママに会ったら、彼がどれだけ不誠実なことをしたかすべて言いつけてやる」という筋書きは、昭和の歌謡曲に多かった「耐え忍ぶ女性像」や「未練を断ち切れない悲劇のヒロイン像」とは完全に一線を画していました。浮気男本人と直接泥沼の口論をするのではなく、彼が最も頭の上がらない母親を味方につけて社会的・心理的に追い詰めるというプロットは、ユーミンならではのドライで洗練されたウィットの極致と言えます。
映画『魔女の宅急便』の制作当時、宮崎駿監督は13歳の主人公キキが故郷を離れて知らない街へ旅立つシーンに、あえてこの楽曲を配置しました。一見すると不倫・浮気劇を描いた大人のポップスでありながら、「住み慣れた場所を飛び出し、列車に揺られて新しい世界へ向かう高揚感と少しの不安」という感情のダイナミズムが、独り立ちするキキの心理描写と奇跡的なシンクロを生み出したのです。