モブレーの代表作といえば、1960年のワンホーン名盤『Soul Station』が広く知られています。しかし、ジャズのダイナミズム、アンサンブルの妙、そして時代がモードジャズや新主流派へと移行する過渡期の熱気を体感する上では、この『No Room for Squares(ブルーノート 4149)』こそが「ハンク・モブレーの最高傑作」であると推す批評家や熱心なファンは少なくありません。
モブレーは「テナーサックスのラウンド・ミドルウェイト・チャンピオン」と評された通り、突出した派手さよりも、滑らかなレガート、美しいフレージング、決して破綻しない構造的なソロ構築に真骨頂がありました。本作ではその知的なフレージングが、リー・モーガンの攻撃的なブロウやフィリー・ジョーの強力なプッシュを受けることで、一段高い次元へと昇華されています。
伝統的なハードバップのブルース感覚を根底に持ちながら、1960年代中盤のモード的なアプローチを自然体で呑み込んだ音楽性。これこそが、モダンジャズのひとつの到達点と称賛される理由です。