「一夜一夜に人見頃」にまつわるネット上の言説には、数学的・歴史的な誤解も少なくありません。ここで客観的な事実に基づいて代表的な誤解を是正しておきます。
誤解1:語呂合わせを最後まで覚えれば平方根の正体が分かる?
「語呂合わせの続きを完璧に覚えれば√2の正確な値に到達できる」と勘違いしているケースがありますが、これは数学的に誤りです。有理数(分数で表せる数)と異なり、無理数は小数点以下が周期的に循環することなく無限に続く数です。どれほど長い語呂合わせを作っても、それはあくまで有限桁で切り捨てた「近似値」に過ぎず、数学的な厳密性を持つ真の値そのものは根号記号「√2」でしか表せません。
誤解2:「一夜一夜に人見頃」は近代に文部省が作った?
この語呂合わせの発祥を明治以降の国定教科書や文部省(現・文部科学省)の主導によるものと考える人がいますが、公的な記録に特定の創作者は残されていません。日本には江戸時代の「和算」の時代から、複雑な計算則や定数を五七五の短歌や語呂に乗せて口伝する豊かな文化が存在しました。円周率や開平(平方根の計算)の近似値を言葉遊びに乗せる発想は、民間の寺子屋や私塾における和算の知恵が、近代の旧制中学校制度へと引き継がれる過程で自然発生的に洗練されていったというのが学術的に有力な見解です。