行政区が3つに割れている現実は、現地で働き、暮らし、ビジネスを営む人々にどのような影響を与えているのでしょうか。現地取材と関係者の声から見えてくるのは、外観のスマートさとは裏腹な、極めて独特な行政境界の実態です。
最も顕著な例が警察署の管轄問題です。臨海副都心を網羅する警察拠点として2008年に新設された「東京湾岸警察署」は、江東区青海二丁目に置かれています。しかし、事件や事故の発生場所が港区台場なのか、江東区青海なのか、あるいは品川区東八潮なのかによって、自治体との連携や防犯パトロールの窓口、道路使用許可を申請する行政窓口(区役所の土木課等)は全く異なります。
地元で大型商業施設の運営に携わる担当者は、当時の苦労を次のように明かします。
「エリア全体で連動したプロモーションやスタンプラリーを実施しようとすると、港区、江東区、品川区のそれぞれの産業振興課や保健所、警察署へ個別に説明に回らなければなりませんでした。パンフレットの表記ひとつをとっても、区ごとにガイドラインが微妙に異なり、調整には膨大な時間と労力を費やしました」(商業施設関係者談)
また、台場一丁目・二丁目に住む高層タワーマンションの住民たちにとっても、日常の行政手続きには特有の感覚が存在します。
「買い物や外食は徒歩数分のダイバーシティ東京(江東区)や有明方面(江東区)を日常使いしていますが、選挙の投票所や子どもの就学指定校、保育園の手続きは当然すべて港区です。港区役所本庁舎(港区芝公園)に行くにはレインボーブリッジを渡る必要があり、隣の江東区役所よりも心理的な距離を感じることがあります。ただ、港区独自の充実した子育て支援や行政サービスを受けられる点は大きなメリットですね」(港区台場在住・30代主婦のリアルな証言)
さらに、ゴミ収集のルールやリサイクル回収日も区境を境に明確に分断されています。道幅数メートルの道路を挟んだ向かい側のビルとこちら側のビルで収集車がやってくる曜日や指定ゴミ袋の運用が異なるなど、現場では3つの特別区がパッチワークのように機能しているのです。