2×2までは順調に進んでいた学習者が一気に脱落するのが $3 \times 3$ 以上の行列です。3×3の逆行列を求める代表的な手法には逆行列 3×3 掃き出し法(ガウス・ジョルダン消去法)と、逆行列 余因子展開 求め方(余因子行列を用いる方法)の2つが存在します。どちらを使うべきかは、行列の疎密(0の多さ)や次数によって厳密に使い分けるのが正攻法です。
手法1:ガウス・ジョルダン消去法(行基本変形を用いた掃き出し)
ガウス・ジョルダン消去法 行列の基本概念は、「元の行列 $A$ の右隣に単位行列 $I$ を並べた拡大係数行列 $[A \mid I]$ を作り、行基本変形を繰り返して左側を単位行列に変形したとき、右側に残った行列がそのまま $A^{-1}$ になる」という鮮やかな解法です。
$$[A \mid I] \xrightarrow{\text{行基本変形}} [I \mid A^{-1}]$$
利用できる行基本変形は以下の3操作のみです。
- ある行を何倍(0以外)かする。
- ある行の定数倍を、別の行に足す(または引く)。
- 2つの行を入れ替える。
具体的な数値例として、次の行列 $A$ の逆行列を掃き出し法で求めてみます。
$$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 1 \\ 2 & 5 & 4 \\ 1 & 1 & 0 \end{pmatrix}$$
拡大係数行列をセットします。
$$\left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 2 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 2 & 5 & 4 & 0 & 1 & 0 \\ 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 1 \end{array}\right)$$
第1列の対角成分「1」を使って、2行目と3行目の第1列を0にします(第2行から第1行×2を引く、第3行から第1行を引く)。
$$\left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 2 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 2 & -2 & 1 & 0 \\ 0 & -1 & -1 & -1 & 0 & 1 \end{array}\right)$$
次に第2列の対角成分「1」を軸に、第3行の第2列を0にします(第3行に第2行を足す)。ついでに第1行の第2列も消去します(第1行から第2行×2を引く)。
$$\left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & -3 & 5 & -2 & 0 \\ 0 & 1 & 2 & -2 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & -3 & 1 & 1 \end{array}\right)$$
最後に第3列の対角成分「1」を用いて、第1行と第2行の第3列を0にします(第1行に第3行×3を足す、第2行から第3行×2を引く)。
$$\left(\begin{array}{ccc|ccc} 1 & 0 & 0 & -4 & 1 & 3 \\ 0 & 1 & 0 & 4 & -1 & -2 \\ 0 & 0 & 1 & -3 & 1 & 1 \end{array}\right)$$
左側が単位行列になったため、右側に現れた行列が求める逆行列です。
$$A^{-1} = \begin{pmatrix} -4 & 1 & 3 \\ 4 & -1 & -2 \\ -3 & 1 & 1 \end{pmatrix}$$
手法2:余因子行列を用いた公式解法
一方、余因子展開を用いる方法は、理論的な証明や成分に文字(変数)が含まれる場合に威力を発揮します。逆行列は余因子行列 $\widetilde{A}$ を用いて以下のように表されます。
$$A^{-1} = \frac{1}{|A|} \widetilde{A} = \frac{1}{|A|} \begin{pmatrix} \Delta_{11} & \Delta_{21} & \Delta_{31} \\ \Delta_{12} & \Delta_{22} & \Delta_{32} \\ \Delta_{13} & \Delta_{23} & \Delta_{33} \end{pmatrix}$$
ここで $\Delta_{ij}$ は、$i$ 行と $j$ 列を取り除いた小行列の行列式に符号 $(-1)^{i+j}$ を乗じた余因子です。最大の落とし穴は、余因子行列の添え字が「転置(行と列が逆)」になっている点です。$\Delta_{12}$(1行2列の余因子)は、逆行列の中では「2行1列」の成分に配置しなければなりません。試験で失点する学生の7割以上が、この転置のステップを見落とすことで不正解となります。
さらに逆行列 4×4 求め方となると話は激変します。4×4で余因子展開を行おうとすると、3×3の行列式を16回も計算しなければならず、計算量は $O(n!)$ の勢いで爆発します。したがって、4×4以上の逆行列を手計算する場合は、計算量が $O(n^3)$ で済むガウス・ジョルダン消去法一択となります。