現在、日本の愛犬家が直面している最も切実な問題の一つが「高齢犬のトリミング難民化」です。多くの民間サロンでは、利用規約において「10歳以上」あるいは「12歳以上」の新規受け入れを一律で断る年齢制限を設けています。
サロン側がシニア犬を敬遠する背景には、施術中の急変リスクがあります。心臓病や気管虚脱、認知機能の低下を抱えるシニア犬は、トリミング台の上で踏ん張る筋力が低下しており、少しの興奮や保定による圧迫が引き金となって呼吸困難や心不全、ショック死を引き起こす事故が後を絶たないためです。悪意からではなく、医療設備を持たない一般店舗では「命を預かりきれない」という防衛策として制限をかけざるを得ないのが業界の現実です。
この壁を乗り越えるため、近年はシニア犬高齢犬対応トリミングに特化した業態へのシフトが進んでいます。その特徴は「綺麗に仕上げること」を第一目的に置かず、「衛生維持のための最短施術」に割り切る点にあります。
例えば、立位が保てない犬には2名体制で身体をクッションで支えながら保定し、ブロー時間を半分に抑える工夫や、顔まわりと排泄腔周囲のみを部分カットして施術時間を30分以内に終わらせる手法です。また、動物病院に併設されたトリミング施設や、自宅の生活環境を崩さずに施術を受けられる出張型グルーミングサービスの需要が急速に拡大しています。愛犬が老境に入った際は、若い頃と同じデザイン性を求めるのではなく、体調優先のメディカルケアへと方針を転換する決断が飼い主側に求められます。