全国の救命救急センターや消防庁の記録を紐解くと、搬送された重症患者の周囲にいた人々は、一様に「最初は風邪を引いたのかと思った」と証言しています。猛暑日の炎天下や締め切った室内において、なぜか患者本人が「鳥肌が立つ」「寒い」と訴え、長袖を羽織ろうとする光景が頻出しているのです。
救急救命士の出動報告書やドクターカーチームの手記には、次のようなリアルな現場状況が生々しく記されています。
「真夏のアスファルト上で倒れていた40代男性は、皮膚が陶器のように白く乾き、呼びかけに対して意味不明な言葉を呟いていました。周囲の同僚は『急に寒いと言い出して震えていたので日陰で休ませていた』と話していましたが、測定した体温は40.8度。汗は1滴も流れておらず、すでにIII度の熱射病に突入していました」(救急救命センター医師の臨床報告資料より)
この熱中症で寒気があり汗をかかない原因は、生体の混乱による二重の異常事態です。血液量の極端な不足によって末梢循環不全(ショック状態)が生じると、皮膚表面への血流が遮断され、皮膚の受容器は「冷たい」と錯覚します。その結果、脳が高熱で暴走しているにもかかわらず、局所的な血管収縮によって身震い(シバリング)が発生し、激しい寒気を感じてしまうのです。SNSや医療相談掲示板でも「真夏にガタガタ震えが止まらなくなった」という生々しい投稿が散見されますが、これは涼しくなったのではなく、身体の温度計が壊れて生命維持の限界点に達したシグナルに他なりません。