小鼻の溝から漂う異臭を嗅いだとき、「なぜよりによって古い油や発酵したチーズのような臭いがするのか」と疑問を抱くのは当然のことです。この悪臭が発生する土台には、皮脂の酸化と皮膚常在菌の代謝という2つのステップが存在します。
顔のTゾーン、とりわけ鼻周囲の皮膚には、背中や頭皮と並んで極めて高密度に皮脂腺が存在します。健康な状態の皮脂自体は本来、ほぼ無臭です。しかし、分泌された皮脂成分のうち約12%を占めるスクワレンや不飽和脂肪酸は、紫外線や外気に触れることで極めて酸化しやすい脆弱性を抱えています。分泌からわずか数時間が経過すると、これらは過酸化脂質へと変質し、古くなった揚げ油のようなツンとした酸化臭(ノネナールやヘキサナールなどのアルデヒド類)を放ち始めます。これが「油臭さ」の物理的な発生源です。
一方、より深刻な悩みとなりやすい「チーズ臭」や「酸っぱい臭い」には、微生物の営みが直接関与しています。皮膚表面に生息する皮膚常在菌マラセチア菌(真菌の一種)や表皮ブドウ球菌は、皮脂中のトリグリセリドを大好物とし、これらをグリセリンと遊離脂肪酸へ分解します。この過程で生成されるのが、短鎖〜中鎖の脂肪酸類です。
なかでも、靴下の蒸れた臭いの主成分としても知られる「イソ吉草酸」や、酸味を帯びた「酢酸」「プロピオン酸」が小鼻の狭い毛穴の中で高濃度に凝縮されると、人間の嗅覚はそれを「発酵したチーズ」や「ヨーグルトが腐敗したような臭い」として知覚します。つまり、鼻の脂が臭うのは、酸化した油膜のプールの中で常在菌が脂肪酸を過剰に排泄している結果なのです。