一方で、SNSや音楽掲示板などでは「カノン進行の曲はどれも同じに聴こえる」「クリエイターの手抜きではないか」といった批判的な声が定期的に散見されます。しかし、現場のプロフェッショナルが用いるカノン進行作曲アレンジ手法の実態を知れば、それが短絡的な誤解であることは明白です。
最大の盲点は、プロの作曲現場において「原曲そのままのコード進行をベタ打ちすることは稀である」という点にあります。実際には以下のような高度なリハーモナイズ(コードの再配置)が施されています。
- ベース音の分数コード化(オンコード):「C - G/B - Am - Em/G - F - C/E - Dm7 - G7」のように、ベースラインを徹底して滑らかなスケール下降に整え、都会的な洗練さを付加する。
- パッシングディミニッシュの挿入:コードとコードの間に半音の経過音を挟み込み、ジャズや現代R&B特有のエモーショナルな軋みを生み出す。
- トップノートのペダルポイント:コードが目まぐるしく変化する裏で、高音部の単一音を持続させ、現代的なアンビエント感や浮遊感を演出する。
音楽歴20年以上のプロアレンジャーらの証言や制作現場のデータによれば、ギター初心者向けとされる楽曲のなかには、カノン進行と似た響きを持ちながら実際には別の循環進行であるケースも多く、リスナーが「耳馴染みの良さ」ゆえにすべてカノン進行と錯覚してしまう現象すら起きています。同じ骨格を用いながらも、メロディの跳躍、リズムのシンコペーション、音色の質感によって全く異なる世界観を構築できる点こそが、このコードの真の懐の深さなのです。