名言をめぐる言説の中には、美談として拡散されながらも、歴史的検証によって疑義が呈されているケースが少なくありません。その最たる例が、インターネットやSNSで定期的にバズを生むアインシュタインの愛の手紙の真相です。
ネット上で流布している言説では、「物理学者アルバート・アインシュタインが娘のリーゼルに宛てた手紙の中で、『世界を動かす最も強力な力は、科学が見落としてきた普遍の力、すなわち愛である』と書き残した」と語られています。光の速度やE=mc²の方程式を引用しながら愛の偉大さを説くこの手紙は、感動的なエピソードとして長年シェアされてきました。
しかし、アインシュタインの膨大な遺稿を管理・保存しているエルサレム・ヘブライ大学の「アルバート・アインシュタイン・アーカイブ」をはじめとする公的研究機関の徹底した調査により、この手紙はアインシュタイン本人が執筆した記録が一切存在しない偽書(創作物)であることが確定しています。
実在の娘リーゼルに関する書簡群の中に該当する手紙は存在せず、1980年代後半以降に第三者によって創作された文章が、科学者の威光を借りて世界中に流布したというのが客観的な事実です。偉大な名前を借りずとも愛の尊さは語れるはずですが、この事例は「権威への盲信」がどれほど簡単に史実を歪めてしまうかを示す、メディアリテラシー上の重要な教訓となっています。