ネット検索を行うと「放置していれば自然に治る」という楽観論と、「口腔がんの初期症状ではないか」という極端な悲観論が混在しており、多くの読者を混乱に陥れています。ここで両者の誤解を明確に是正しなければなりません。
まず、「骨棘の歯茎は自然治癒するのか?」という問いに対しては、状況次第で回答が分かれます。抜歯後に生じたごく微小な骨のかけら(腐骨片)であれば、周囲の破骨細胞による生体吸収や、生体の異物排出機構によって、2〜3週間程度でポロリと自然脱落することは臨床的によく経験されます。しかし、骨隆起や、歯槽骨の突出端が粘膜を突き破っているケースでは、歯茎から骨が出た状態を放置しても自然治癒によって骨が引っ込むことは医学的にあり得ません。
放置によって生じる最大の盲点は、「慢性的な機械的刺激による二次障害」です。突出した骨の頂点は粘膜が紙のように薄くなっているため、硬いせんべいやフランスパンなどの食物が衝突しただけで容易に裂傷を起こし、難治性の口内炎(褥瘡性潰瘍)を形成します。さらに、中高年以降で部分入れ歯や総入れ歯を作製する際、骨隆起が出っ張っていると義歯の床が骨に直接当たって激痛が走り、入れ歯を装着できなくなるという機能的障害が浮上します。
なお、「硬いしこりは悪性腫瘍(口腔がん)ではないか」という不安については、良性の骨隆起と肉腫・癌には明確な鑑別点があります。骨隆起は骨そのものの石灰化硬度を持ち、表面は平滑で正常な歯肉色をしています。一方、悪性病変は表面がカリフラワー状にただれたり、硬結(ゴムのような硬さ)の周囲に出血や自発痛、急激なサイズ増大を伴います。ただし、素人判断での自己診断は極めて危険であり、鑑別にはX線写真や歯科用CTによる客観的診断が不可欠です。