業務を進めるうえで頻繁に混同される言葉に「コンプライアンス」「職業道徳」「職業倫理」があります。これらを同一視している組織ほど、不祥事の芽を見落としやすいのが実情です。三者の根本的な境界線を明確に切り分ける必要があります。
コンプライアンスとの違いと理由を突き詰めると、拘束力の発生源と目指す到達点が異なります。コンプライアンスは「法律や社内規則など、明文化された外部規範に違反しないこと」を指し、いわば社会で活動するための「最低限のパスポート」に過ぎません。これに対して職業倫理は、法令の隙間に存在するグレーゾーンにおいて「社会的正義や利用者の利益に照らして何が正しいか」を自律的に問い続ける姿勢を求めます。法律に違反していなければ何をしても許されるという論理は、職業倫理の前では通用しません。
一方、職業道徳との定義の違いも押さえておくべき重要項目です。職業道徳とは、時間を守る、挨拶をする、誠実に働くといった、社会人全般に広く期待される良心や徳目を指します。これに対し職業倫理は、特定の知識や資格、権限を独占するプロフェッショナルが、その影響力の大きさを自覚し、利害関係者(ステークホルダー)や社会全体に対して負う「公的な責任と行動基準」です。
こうした職業倫理が求められる社会的背景と経緯を振り返ると、かつては業界団体や専門職ギルドによる「自主規制」に委ねられていた側面がありました。しかし、専門知識の独占が身内びいきや隠蔽体質を生む温床となってきた歴史的経緯が存在します。英国の判例法や国際的なガバナンス改革の歩みが示す通り、裁量権の暴走を防ぐためには、自律的でありながら外部社会の評価に開かれた倫理規範が不可欠であるという認識が定着しました。