神経細胞の脱分極と活動電位はわずか1〜2ミリ秒という一瞬で完了しますが、心臓を構成する心室筋細胞の活動電位は200〜300ミリ秒と、およそ100倍以上も長く持続します。この違いに大きく関わっているのがカルシウムイオン(Ca²⁺)です。
プラトー相(第2相)とCa²⁺流入のメカニズム
心室筋細胞の活動電位は、0相から4相までの5つのフェーズで構成されます。 1. 第0相(急速脱分極相):刺激により電位依存性Na⁺チャネルが開き、Na⁺が流入して急激に立ち上がる。 2. 第1相(初期急速再分極相):Na⁺チャネルが閉じ、一過性のK⁺流出により電位がわずかに下がる。 3. 第2相(プラトー相):電位依存性L型Ca²⁺チャネルが開口し、細胞外からCa²⁺が流入する。同時に外へ出ようとするK⁺の流出と電気的に釣り合い、電位が横ばい(プラトー)を保つ。 4. 第3相(終末再分極相):Ca²⁺チャネルが閉じ、K⁺の流出が勝ることで元の電位へ急降下する。 5. 第4相(静止相):次の拍動に備えて静止膜電位を維持する。 心筋において脱分極の後にこの「プラトー相」が存在する理由は極めて合理的です。細胞内に流入したCa²⁺は筋小胞体からのCa²⁺放出(CICR: カルシウム誘発性カルシウム放出)を引き起こし、強力な心筋収縮をもたらします。さらに、活動電位の持続時間が長くなることで心筋に長い「絶対不応期」が生まれ、心臓が骨格筋のように痙攣性の硬直(強縮)を起こさず、一拍一拍確実に血液を拍出できる安全弁として機能しています。
心電図波形との直接的リンク
臨床現場で毎日のように目にする12誘導心電図は、無数の心筋細胞で発生する脱分極と再分極の電気的総和を体表面から記録したものです。 * P波:左右の心房が脱分極(興奮)する過程を反映。 * QRS波:左右の心室全体に興奮が広がる「心室の急速脱分極」を反映。 * ST部分:心室全体が脱分極したまま拮抗している「プラトー相」に対応。虚血時に偏位する重要部位。 * T波:心室筋が興奮から覚めて元に戻る「心室の再分極」を反映。 「QRS波=心室脱分極」「T波=心室再分極」という関係性を頭の中で結びつけることで、波形の異常がどのイオンチャネルや病態に起因しているのかを立体的に把握できるようになります。