ネット上の健康コラムなどでは、「夢を見ない人ほどぐっすり熟睡できている証拠」「夢を覚えているのは睡眠障害の証拠」といった二元論が散見されますが、これは医学的な事実を無視した短絡的な誤解です。
アルコールや睡眠薬による「レム睡眠の強制遮断」という落とし穴
「寝酒を飲むと夢を見ずに朝まで気絶するように眠れる」と語る人がいますが、これは極めて危険な錯覚です。アルコールは初期の入眠を促す一方で、レム睡眠を強力に抑制します。その結果、夢を見る機会自体が化学的にブロックされているにすぎず、脳の情動整理や記憶統合は完全に滞っています。さらにアルコールの血中濃度が低下する早朝には、反跳現象(リバウンド)によって激しい悪夢や金縛り、頻繁な中途覚醒が引き起こされます。睡眠導入剤の一部にもレム睡眠比率を変化させるものがあり、「夢を見ないこと」自体を目的に薬物やアルコールに頼る行為は本末転倒です。
安易な「夢日記」の記録が引き起こす精神的リスク
創造性を高める目的や明晰夢(夢の中で夢だと自覚すること)を見る訓練として「枕元にノートを置き、起きた瞬間に夢日記をつける」というライフハックが推奨されることがあります。しかし、精神医学の観点では、神経症傾向の強い人や境界例気質の人に対して夢日記を推奨しません。夢日記を習慣化すると、覚醒時の意識野が急速に睡眠時の無意識領域へ接続されやすくなり、現実検討能力(現実と夢の境目を見極める認知的機能)が低下して離人感や抑うつを悪化させるリスクが学術的にも指摘されています。