3月31日は、日本の労働市場において最も退職者が集中する「年度末の決戦日」です。しかし、労務管理の現場を取材すると、この日付をめぐって深刻な労使紛争や手取り額の逆転現象が多発しています。特に近年SNSや労働相談窓口で急増しているのが、有給消化の権利行使と社会保険料の二重払い誤認をめぐるトラブルです。
典型的な事例として、大手IT企業を2025年度末に離脱した30代男性の証言があります。「残余有給休暇が35日残っていたため、2月中旬からすべて有休消化に入り3月31日退職を希望したところ、人事から『業務の引き継ぎが終わらないなら時季変更権を行使する』『有給の買い取りは原則違法だから消化しきれない分は捨ててもらうしかない』と冷淡に通告された」といいます。労働基準法第39条において有給取得は労働者の権利であり、退職日を超えての時季変更権は行使できないというのが確立した判例法理ですが、年度末の現場では現場監督者の無理解から強引な揉み消しが後を絶ちません。
さらに見落としてはならないのが「社会保険料の資格喪失日」のルールです。健康保険および厚生年金保険法では、「退職日の翌日」に保険資格を失うと定められています。
例えば、3月30日付で退職した場合、資格喪失日は3月31日となります。社会保険料は「資格喪失日が属する月の前月分」までを会社が控除するため、この会社では3月分の社会保険料は天引きされません(ただし、即座に国民健康保険・国民年金へ移行して個人で3月分を支払う必要があります)。これに対し、3月31日付で退職した場合、資格喪失日は4月1日(翌月)となります。法律上「資格喪失月の前月」は3月となるため、3月分の社会保険料が退職月の給与から控除されます。
「3月31日退職にしたら最後の給与から2ヶ月分の社会保険料(前月分+当月分)が引かれて手取りが激減した」というネット上の悲鳴の正体は、この給与締日と保険料翌月徴収の仕組みにあります。転職先が4月1日入社であれば空白期間なく社会保険が連続するため3月31日退職が最も合理的ですが、退職後にしばらく休養する計画の人は、手続きの選択次第で手元のキャッシュフローが一時的に大きく揺らぐリスクを理解しておく必要があります。