これほどまでに人を選び、不快感を与える要素を孕みながら、なぜ本作は世界的なメガヒットを記録したのでしょうか。完結から時を経た現在、批評家やファンの間では「嫌悪感を物語の推進力へと転換させた構成力の勝利」として極めて高い再評価が下されています。
人間には、タブーや死、怪奇なものから目を背けたいと願いつつも、同時に惹きつけられてしまう根源的な好奇心があります。『進撃の巨人』はその心理を巧みに掌握し、読者に「気持ち悪さ」という強烈なフックを打ち込みました。しかし、そこから先にあるのは単なるスプラッターではなく、緻密に張り巡らされた伏線、民族間の対立、正義の相対性といった深遠なドラマです。
読者は巨人の気持ち悪さに戦慄しながらも、「なぜ巨人は人間を食べるのか」「壁の外には何があるのか」という謎を解き明かすカタルシスに絡め取られていきました。不快感を強烈なリアリティの担保として機能させたことこそが、本作を唯一無二の傑作へと押し上げた真因です。