「香りを強く残したいなら、柔軟剤を規定量の1.5倍から2倍投入すればよい」という言説がネット上で散見されますが、これは化学的見地からも洗濯効率の面からも完全な誤解です。過剰な投入は、期待とは真逆の結果を招きます。
第一に、柔軟剤の主成分である陽イオン界面活性剤が繊維に過剰吸着すると、衣類の吸水性が著しく低下します。水分を吸わなくなったタオルや肌着は、汗を吸収できずに表面に汗を残し、結果として雑菌の繁殖を促して「酸っぱい生乾き臭」の原因物質(モラクセラ菌など)を爆発的に増やしてしまいます。高級な香料と雑菌臭が混ざり合うことで、極めて不快な悪臭へと変貌するリスクを孕んでいます。
第二の盲点が「嗅覚疲労(嗅覚順応)」の罠です。人間の嗅覚は同一の刺激に晒され続けると、わずか数分から数十分でその匂いを感じにくくなる生理的特性を持っています。毎日同じ柔軟剤を使っている本人は「香りが薄くなった」と錯覚し、投入量を日ごとに増やしてしまいがちです。その結果、本人が気付かないまま周囲へ強烈な香りを撒き散らすスメルハラスメント加害者になってしまう構造が生まれます。
香りを美しく残すための黄金ルールは、常に容器に記載された「水量に対する規定量」を厳守することです。香りの強さに物足りなさを感じた場合は、投入量を増やすのではなく、一度酸素系漂白剤で衣類のリセット洗いを行い、繊維にこびりついた皮脂汚れと古いシリコン被膜を落とすことが最も劇的な効果を発揮します。