養生訓の食事法で最も有名な概念が「腹八分目」の教えです。満腹を感じる手前で箸を置くという習慣は、今やカロリー制限によるサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の活性化や、オートファジー(細胞の自己浄化機構)の観点から現代医学でも広く推奨されています。
益軒は「胃腸の消化力(胃気)こそが生命の根源」と位置づけました。どんなに高価な滋養強壮薬を飲んでも、消化吸収する内臓が疲弊していては毒になるだけだと断言しています。さらに、食事の内容に関しても次のような具体的指示を残しています。
冷たい水や生ものの過剰摂取を避け、加熱した温汁を好むこと。味が濃く脂っこい料理を控え、薄味で素材本来の滋味を味わうこと。これらは胃腸の血流低下を防ぎ、腸内細菌叢のバランスを保つための鉄則として、最新の消化器病学や栄養学のアプローチと完全に一致しています。空腹の時間を適度に作り、内臓の負担を減らすというアプローチは、江戸の儒学者が導き出した奇跡的な直見です。