日本の出版史を振り返ると、社会的な議論を巻き起こし、ベストセラーランキングの頂点を極めた暴露本が数多く存在します。なかでも1990年代から2010年代にかけて世に出た作品群は、取り上げられた実名の多さや告発の過激さにおいて群を抜いていました。
その筆頭として語り継がれているのが、2006年に発売された石原真理子さんの『ふぞろいな秘密』です。1980年代から1990年代の芸能界を駆け抜けた女優が、過去に交際した大物俳優や大物歌手の実名を13人にもわたって明かした内容は、当時のワイドショーを独占しました。当事者たちのプライバシーを一切顧みない生々しい記述は激しい賛否両論を呼び、出版差し止めを巡る法的議論へと発展。芸能界における実名告白本の破壊力を世に見せつけた象徴的事件でした。
一方で、単なる情事の暴露とは一線を画し、人間の精神的危機と犯罪的搾取の恐怖を生々しく告白したのが、X JAPANのボーカリスト・Toshl(当時の名義はTOSHI)さんによる『洗脳 地獄の12年からの生還』(2014年、講談社)です。90年代後半から世間を騒がせた洗脳騒動の全貌を自ら綴った同書では、自己啓発セミナー「ホームオブハート」の主宰者・MASAYAと元妻により、12年間にわたってマインドコントロールと執拗な暴力支配を受け、10億円以上とも言われる莫大な資産を奪い尽くされた実態が克明に描かれました。手記の中で明かされた「逃げ場のない密室での暴行と罵倒」の生々しさは、カルト被害の恐ろしさを広く知らしめる貴重なドキュメントとしても高く評価されています。
さらに、かつて清純派として人気を博した女優の奥菜恵さんが自身の半生と結婚・離婚の真相を綴った『赤い運命』や、薬物事件からの再起と過ちを赤裸々に告白した酒井法子さんの『贖罪』など、著名人による告白本は累計で70作以上にも及びます。近年では、ネット上の真偽不明なゴシップを動画配信と書籍のハイブリッドで拡散し、国政にまで波及したガーシー(東谷義和)氏による『死なばもろとも』のような異端の作品も登場しました。プラットフォームが紙からデジタル、動画へと移行しても、著名人の「秘密」に対する大衆の渇望は形を変えて生き続けています。