インターネット上の掲示板やSNSでは、時折「高倉健はテレビドラマを軽視していたのではないか」「テレビタレントを見下していたから出演しなかった」という乱暴な憶測が散見されます。しかし、当時の現場関係者の証言や本人の肉声を丹念に追うと、事実は全く逆であったことが浮き彫りになります。
高倉はむしろ、テレビというメディアの瞬発力と大衆への浸透力を誰よりも恐れ、敬意を払っていました。自著や当時の特番インタビューにおいて、彼は「テレビカメラの前に立つと、映画の何倍も素の自分が暴かれてしまうような怖さがある」と漏らしています。ごまかしの利かないメディアだからこそ、生半可な気持ちや単なる小遣い稼ぎで出演してはならないという、厳格な自戒があったのです。
現場での立ち居振る舞いも、その敬意を裏付けています。『あにき』の収録時、照明や音声のアシスタントに至るまで全スタッフの氏名を暗記し、現場に温かいコーヒーのケータリングを差し入れ、若手俳優にも必ず立ち上がって挨拶を返したエピソードは有名です。自分が映画スターであるという特権意識を現場に持ち込むことを最も嫌い、ひとたびテレビの現場に入れば、誰よりも謙虚な一人の職人として振る舞いました。
ネット上の「テレビ嫌い」という誤解は、彼の寡黙でストイックなパブリックイメージと、極端に出演作を絞り込んだプロデュース戦略が表層的に結びついた結果生じたバイアスに過ぎません。