物語の結末において、なぜ二人はどちらかの陣営に身を寄せる選択をしなかったのでしょうか。ここには、監督自身が意図した極めてシビアな現実認識が横たわっています。
もしサンが人間の里(タタラ場)に降りて暮らせば、それは「自然が人間に屈服・同化された」ことを意味します。逆にアシタカが完全に森に隠棲すれば、「人間社会の業や文明の課題から逃避した」ことになってしまいます。宮崎駿監督は制作時のドキュメンタリー映像や手記において、「人間と自然の対立には簡単に解決できる妥協点など存在しない」と繰り返し語っていました。
作中で放たれたアシタカの名言「生きろ、そなたは美しい」「共に生きよう」は、甘い恋愛の台詞ではなく、相容れない断絶を抱えたまま、それでも同じ時代を懸命に生き抜くという過酷な覚悟の表明です。もののけ姫におけるアシタカとサンの関係性は、同一化を求めず、相手の尊厳と出自を100%尊重した上で成立する「究極の共生関係」であると言えます。