上原ひろみの演奏に触れた人がまず圧倒されるのは、視覚的・聴覚的なインパクトを伴う「超絶技巧」と、ピアノという楽器の限界を突破するかのようなダイナミズムです。しかし、彼女の演奏が単なる技術の誇示(サーカス的演奏)で終わらず、世界中の聴衆の涙を誘う背景には、音楽的・身体的な明確な理由が存在します。
第一の理由は、「驚異的なリズムの独立性とポリリズム」です。左手で変拍子や高速のベースラインを強烈なタイム感でキープしながら、右手ではまったく異なる拍子や複雑なアドリブフレーズを自由に歌わせる技術は、ピアニストの中でも突出しています。本人が過去のインタビューで「私にとってピアノは打楽器であり、オーケストラそのもの」と語っている通り、鍵盤を叩くアタックの鋭さと、グルーヴを生み出す身体感覚が一般的なジャズピアニストの枠組みを大きく超えています。
第二の理由は、「感情の完全な身体化とトランス状態(フロー体験)」にあります。演奏中の彼女は、立ち上がり、跳ね、鍵盤を愛おしそうに見つめ、時に唸り声を上げながら音と一体化します。心理学でいう「ディープ・フロー(極限の没入状態)」に入り込むことで、技巧を超えた純粋なエネルギーがダイレクトにオーディエンスへと放射されるのです。ネット上のファンコミュニティやSNSでも「一音一音から生きている歓喜が伝わってくる」「ライブを観ると魂が浄化される」といった声が絶えません。