『僕が一番欲しかったもの』が放つ圧倒的な説得力は、卓越したメロディセンスと綿密に計算されたコード進行に裏打ちされています。音楽構造の基盤となっているのは、西洋音楽の王道であり日本人の情緒に最も深く染み入るカノン進行(Pachelbel's Canon)の応用形です。
キー=Eメジャー(セルフカバー版)を主軸とした構成において、I→V→VIm→IIIm→IV→I→IV→Vという王道の下降ラインをベースにしながら、槇原敬之ならではのテンションコードや分数コードが随所に散りばめられています。これにより、単なる予定調和に終わらない「切なさと希望が同居する独特のノスタルジー」が醸成されます。
さらに特筆すべきは、AメロからBメロ、サビへと進むにつれて音数が重なり、ラストの大サビに向けてオーケストレーションが壮大に広がっていくドラマツルギーです。主人公が「自分は何も得られなかった」と失意を抱く静かなパートから、他者の笑顔に気づいて心が満たされるクライマックスにかけて、転調と開放感あふれるコーラスワークが同期し、聴き手に強力な音響心理学的カタルシスをもたらします。