作品を鑑賞した誰もが印象に残るのが、登場人物たちが交わす独特の会話劇です。ショーンたちが「メェ〜」と鳴き、ビッツァーが唸り声をあげるのと同様に、牧場主も「うがうが」「モゴモゴ」といった抑揚のあるハミング音だけで感情を表現します。明確な英語のセリフを喋らないのには、サイレント映画黄金期から受け継がれる表現哲学が関係しています。
本作はチャールズ・チャップリンやジャック・タチ、バスター・キートンらが確立したスラップスティック(ドタバタ喜劇)とノンバーバル・コメディの系譜を色濃く引いています。言語による説明を徹底的に排除し、視覚的なアクションと音響効果だけで物語を完結させることで、世界170カ国以上の多言語圏において翻訳の壁なしに楽しめるグローバルなエンターテインメントを実現しました。
この独特な「声」を一手に担っているのが、イギリスの実力派コメディアン・俳優のジョン・スパークス(John Sparkes)です。スパークスは牧場主の不満げな呟きや歓喜の叫びだけでなく、実は愛犬ビッツァーの唸り声や鳴き声も演じ分けており、1人2役で人間と犬の絶妙な掛け合いを成立させています。