伊佐爾波神社が一般的な古社と一線を画す最大の知的好奇心ポイントが、回廊内に掲げられた伊佐爾波神社 算額 歴史の存在です。神社仏閣の境内において「数学の絵馬」に出くわす体験は、予備知識のない参拝者に強烈なインパクトを与えます。
「算額(さんがく)」とは、江戸時代に日本独自の数学体系として発展した「和算」において、難解な幾何学や代数の問題を解いた数学者や愛好家が、神仏の加護への感謝と自己の研究成果の顕彰、さらには他流派への挑戦を込めて奉納した扁額です。
伊佐爾波神社には、1803年(享和3年)から昭和初期にかけて奉納された現存22面もの算額が大切に保管されており、そのうちの多くが社殿の回廊に実物や複製として掲示されています。これほどの規模と保存状態で算額群が残されている例は全国的にも極めて珍しく、愛媛県指定有形民俗文化財にも指定されています。
図形や数式が記された算額を間近で観察すると、江戸時代の松山藩に高度な数学的素養を持った知識人コミュニティが存在し、身分を越えて知を競い合っていた熱気が伝わってきます。単なる宗教施設にとどまらず、当時の最高峰の知性が集う「アカデミー」としての機能を果たしていた事実が、この神社の奥深さを際立たせています。