儺追神事の中心に立つ「神男(しんおとこ)」とは、一体何者なのでしょうか。民俗学や宗教学の視点から見れば、神男は古代社会における「スケープゴート(身代わりの生贄)」の原型を色濃く残す、世界的に見ても極めて稀有な存在です。
神男は、自ら志願した厄年の男性らの中から、毎年厳しい神事(籤引き)によってたった1人が選出されます。選ばれた瞬間から、その人物の日常は完全に遮断されます。神男に選ばれることは地域における最高の栄誉であると同時に、文字通り「命を賭した過酷な試練」の始まりを意味します。
歴代の神男経験者の手記や地元関係者の証言によると、儺追殿に籠もっている期間は、テレビやスマートフォンなどの通信機器は一切禁止され、食事も「火の清め」を受けた極めて質素なものに限られます。祭りの当日、丸坊主となって境内へ飛び出した瞬間、神男の視界は裸男たちの汗と蒸気、そして凄まじい地鳴りのような叫び声で覆い尽くされます。
「息が吸えず、骨がきしむほどの圧力を受けるが、恐怖心は消え、ただ儺追殿へ辿り着かなければならないという祈りだけが残る」という証言の通り、神男が命がけで境内の儺追殿に引き上げられた瞬間、境内に居合わせた数万人の観衆から地響きのような歓声が沸き起こります。神男が厄をすべて引き受けて無事に殿内へ収まったことで、世界が再び清浄を取り戻したと見なされるからです。