記者会見の壇上にスーツ姿で現れた秋山は、深々と頭を下げて謝罪の弁を述べました。その席上で彼が語った塗布の動機は、日本中のファンや関係者を大いに困惑させることになります。
秋山は「自分は極度の乾燥肌であり、日常的に多汗症の症状も抱えていた。普段の生活や練習後から常用していたスキンローションを、悪気なく塗ってしまった」と釈明。相手のタックルを滑らせて有利に立とうとする不正の意図は一切なく、あくまで身体ケアの延長線上にあった過失だと主張したのです。
しかし、格闘技界においてワセリン反則や油性物質の塗布禁止は、プロ・アマ問わず初歩中の初歩に位置する鉄則です。総合格闘技や柔術において、汗と混ざり合った保湿剤がグリップ力を奪い、関節技やタックルの防御にどれほど絶大な効果をもたらすかは、現役選手であれば骨の髄まで理解しているはずの物理現象でした。「プロ選手がそれを知らなかったはずがない」という厳しい見解が、弁明の説得力を完全に打ち消してしまったのです。
さらに世論の怒りに油を注いだのが、秋山の過去の経歴でした。秋山は柔道時代、2003年の世界柔道選手権大阪大会や全日本選抜体重別選手権などにおいて、対戦相手から「道着がすべる」「道着に洗剤のような油分が残っている」と度重なるクレームを受け、試合途中に道着の交換を命じられた前歴がありました。柔道連盟の検査では明確な違反物質は検出されず不問とされたものの、ファンやメディアの記憶にはその疑惑が強く焼き付いていたのです。
「柔道時代から意図的に体を滑らせていたのではないか」という疑念は瞬く間にネット空間を駆け巡りました。巨大掲示板や格闘技コミュニティを中心に、秋山成勲の名をもじった「ヌル山」という蔑称が爆発的に拡散。この不名誉なラベルは単なるネットスラングの枠を超え、彼のファイター人生に長年まとわりつく十字架となりました。