横浜のパン文化を語るうえで、元町中華街エリアの歴史的背景を外すことはできません。幕末の開港に伴い、外国人居留地が置かれた山手地区の足元に位置する元町は、西洋の食文化が日本で最も早く根付いた特別な土地です。
1888年(明治21年)創業の「ウチキパン」は、まさにその象徴といえます。初代・打木彦太郎氏がイギリス人技師から受け継いだ製法で作られる山型食パン「イングランド」は、ウチキパン発祥の歴史そのもの。ホップを用いた伝統的な発酵種を今なお頑なに使い続け、気泡が大きく軽やかな口溶けと、トーストした際の香ばしい歯触りを生み出しています。
かつて横浜港を出入りした船乗りや居留地の外国人たちを唸らせた味わいは、4世代にわたって受け継がれてきました。朝9時の焼き上がり時間に合わせて店舗を訪れると、焼きたての甘い香気が元町の路地に漂い、観光客だけでなく高齢の地元常連客が迷わずトレーに2斤、3斤と乗せていく光景が広がっています。流行に左右されない骨太な存在感こそが、元町の老舗が放つ最大の強みです。