『ワカコ酒』が10年以上にわたり熱狂的な支持を集め続ける最大の要因は、主演・武田梨奈が体現する「食とお酒に対する一切の衒(てら)いがない純粋な敬意」にあります。仕事帰りにふらりと暖簾をくぐり、その日の気分に合わせた酒と肴をじっくりと味わう。誰に気兼ねすることもない「個の充足」を描く姿勢が、日常に疲れた現代人の心に深く染み渡っています。
なかでも象徴的なのが、酒と料理が口の中で完璧に合わさった瞬間に漏れる「ぷしゅー」という至福の吐息です。制作関係者の証言や過去のインタビューによると、この名セリフの誕生には並々ならぬ現場の試行錯誤がありました。原作漫画に描かれる擬音をどう音声化するか、クランクイン当初は「文字通りの発音」にするのか「単なる溜息」にするのか、監督と武田の間で何パターンものテイクが重ねられました。結果として採用されたのは、お腹の底から湧き上がる満足感を自然な呼気とともに解き放つ、武田自身の身体感覚に基づいたアプローチでした。空手で培った呼吸コントロールが、図らずもあの脱力感と幸福感に満ちた唯一無二の響きを生み出したのです。
また、武田梨奈の飲みっぷりに対する評判は業界内でも極めて高く評価されています。劇中で供される料理やお酒はフェイクではなく、撮影現場で出来立てのものが用意され、実際に喉を鳴らして呑み干すスタイルを一貫して踏襲しています。美味しさを大げさに誇張する食レポとは一線を画し、一口含んだ瞬間の瞳の輝きや、わずかな表情の緩みで「本物の旨さ」を伝える演技力こそが、視聴者の喉を鳴らさせる最大の理由です。