本作を語る上で避けて通れないのが、原作者である作家・野坂昭如氏の壮絶な体験談です。作中で描かれる清太の献身的な愛とは裏腹に、野坂氏が胸の奥底に抱え続けた実話モデルの現実は、遥かに残酷で痛ましいものでした。
野坂氏には養父母の家で妹となった「恵子」という名の義理の妹がいました。昭和20年の夏、疎開先の福井県で、恵子はわずか1歳4ヶ月で餓死しています。当時14歳だった野坂氏は、飢餓の極限状態において、配給されたわずかな食糧や大豆、ミルクを泣き叫ぶ妹に与えず、自らの飢えを満たすために横取りして食べてしまったと、後年のエッセイや回想録で赤裸々に告白しています。
暗がりの中で泣き止まない幼い妹を思わず叩いてしまった記憶、日に日に痩せ細り、骨と皮だけになって息を引き取った妹の姿――。野坂氏は生涯にわたり「自分が妹を殺した」という激しい自己嫌悪と罪悪感に苛まれ続けました。小説『火垂るの墓』に登場する清太は、決して野坂氏自身の等身大の姿ではなく、「こうしてやりたかった」「妹を守り抜く優しい兄でありたかった」という届かない理想と痛切な贖罪の具現化にほかなりません。