「あばよ」の魅力を語る上で欠かせないのが、作詞・作曲者である中島みゆき自身によるセルフカバーの存在です。中島みゆきは1979年のアルバム『おかえりなさい』にて、研ナオコへ提供した楽曲群をセルフカバーしています。
二人の歌唱を比較すると、楽曲が持つ異なる表情が鮮明に浮かび上がります。
中島みゆきバージョンは、アコースティックな響きと情念のこもったボーカルにより、主人公の内面に渦巻く痛切な悔恨と怨念に近い愛の深さがストレートに迫ってきます。一方、研ナオコバージョンは、どこか夜の都会の冷気を感じさせるドライなアレンジと、投げやりなポーズを取りながら泣いているようなハスキーな歌声が特徴です。
「泣きながら歌うみゆき」と「笑いながら泣くナオコ」。どちらが優れているかという優劣ではなく、研ナオコという触媒を通したからこそ、「あばよ」は広く大衆に愛されるポップスとしての哀愁を獲得したと言えます。その後も「かもめはかもめ」(1978年)や「窓ガラス」(1978年)など、中島みゆき×研ナオコの黄金コンビは数々の名作を世に送り出すことになりました。
【プロの結論】昭和歌謡ファン・新世代リスナーそれぞれの聴きどころ
「あばよ」を今改めて楽しむにあたり、世代別の鑑賞アプローチを提案します。
昭和歌謡に親しんできた世代:当時のテレビ番組や歌謡祭の熱気を思い出しながら、クニ河内によるストリングスとブラスが効いた歌謡曲的アレンジの完成度の高さ、そして研ナオコの円熟した表現力に耳を傾けるのが醍醐味です。
サブスク等で初めて触れる若い世代:現在のシティポップやチルアウト・ミュージックにも通じる、過度に飾り立てないメロウなボーカルテクスチャーに注目してください。無駄を削ぎ落とした歌詞のストーリーテリングは、現代のショート動画やリリックビデオ文化にも通じる極上の短編小説のような味わいを持っています。