2005年4月にスタートした水田わさび版(現行版)は、すでに20年以上の歴史を積み重ね、現代の子どもたちにとっての「ドラえもん」として完全に定着しています。しかし、大山版と水田版を比較したとき、演出アプローチやキャラクターの関係性には根本的な哲学の違いが見受けられます。
最大の違いは、ドラえもんとのび太の距離感・役割分担にあります。大山版のドラえもんは、どこか母性的な温もりをたたえた「保護者・教育者」としての側面を色濃く持っていました。のび太の過ちに対して厳しく説教をしつつも、最後には温かいポケットで包み込む大山ドラのハスキーボイスは、昭和的なセーフティネットの象徴でもありました。一方、水田版のドラえもんは、藤子・F・不二雄氏の原作コミック初期に見られるような「ドジで慌て者な同世代の悪友・バディ」としての造形が強調されています。対等な友達として喧嘩し、転び、共に成長していくダイナミズムが前面に押し出されています。
また、作画技術と美術設定の質感も対照的です。大山版はフィルム撮影とセル画ならではの柔らかな輪郭線、少し色あせたようなアースカラーの背景美術が特徴的で、昭和の木造家屋や空き地の土管、夕暮れの路地裏といったノスタルジックな原風景を見事に切り取っていました。水田版はフルデジタル作画による鮮やかな色彩設計とスピーディなアクションカメラワークを武器とし、現代的なテンポ感を重視した絵作りへと進化を遂げています。
さらに、劇伴音楽(BGM)の思想も異なります。大山版では菊池俊輔氏が手掛けた哀愁漂うストリングスやコミカルな金管楽器の音色が、のび太の心理描写や日常の機微をドラマチックに彩っていました。これに対し水田版では沢田完氏らによるオーケストラ編成やシンセサイザーを取り入れた現代的なフィルムスコアリングが採用されており、両者を観比べることで日本のアニメーション表現が辿った20年間の進化を如実に体感できます。