ネット上の情報空間には、初心者をつまずかせる危険な誤解が幾つか定着しています。その最たるものが、「サボテンは極限まで水を切って虐め抜けば、危機感から花を咲かせる」という短絡的なスパルタ栽培論です。
確かに一部の植物には、乾燥ストレスによって生殖成長を促す性質が存在します。しかし、サボテンにおいてこの手法を無計画に適用するのは極めて危険です。花を咲かせ、受粉し、果実を太らせるためには、植物体内に十分な貯蔵栄養(炭水化物)と健全な根毛が存在していなければなりません。生育期(春から秋)に十分な光合成を行わせず、ただ単に年間を通じて水を与えないまま放置すれば、花芽をつけるどころか生長点が萎縮し、内部から干からびて枯死する「乾殺し」に終わります。
もう一つの深刻な誤解は、「室内のLED照明やレースカーテン越しの光で十分」という思い込みです。サボテンの原産地は、遮るもののない強烈な紫外線が降り注ぐ高原や砂漠地帯です。日本の室内窓際を通過する光量は、屋外直射日光の5分の1から10分の1未満にまで減衰します。徒長(光を求めてヒョロヒョロと間延びする現象)を起こしている個体は、生命維持だけで手一杯の状態であり、生殖器官である花芽を分化させる余力は一切残されていません。
「過酷さに耐える植物」というイメージが先行するあまり、耐寒性と耐暑性の限界を混同しているケースも散見されます。多くのサボテンは冬の低温(5℃〜8℃程度)を必要としますが、0℃を下回る氷点下の環境や霜に晒されれば、体内の水分が凍結して細胞壁が破壊され、一晩でジュレ状に腐敗します。「適切なストレス」と「破壊的な放置」の境界線を見誤らないことが、開花への第一歩となります。