路地裏に佇む隠れた名店には、常連客だけが知る特別な楽しみがある。その真骨頂が、仕込みに10日以上を費やす漆黒のデミグラスソースを纏ったハンバーグだ。牛すじ肉と香味野菜をオーブンで香ばしく焼き上げ、大鍋で煮出しては漉す作業を幾重にも繰り返す。肉汁を閉じ込めるように表面を強火で焼き、仕上げにオーブンでふっくらと蒸し焼きにしたパティにナイフを入れれば、透明な旨味が奔流となって溢れ出す。
そして、洋食の花形といえばオムライスだ。チキンライスを包み込む極薄の卵焼きに一切の焦げ目をつけない職人技。一部の通の間で語り継がれる限定の裏メニューには、白ワイン仕立ての特製ソースをかけた一皿や、牛すじの赤ワイン煮込みをご飯に忍ばせた贅沢なバリエーションが存在する。ピークタイムを少し外した時間帯に店主へ静かに尋ねると、快く腕を振るってくれることもある。これぞまさに、個店ならではの粋な食体験といえる。