名優・中村嘉葎雄の妻とは誰なのか。その問いの先にあるのは、かつてファッション界やメディアで洗練された美貌と感性を放っていた貴島則子(きじま のりこ)さんの姿だ。モデルやタレント、さらにはデザイナーとしても独自のセンスを発揮していた彼女は、中村嘉葎雄と出会い、名門芸能一家の重責を背負う伴侶としての道を選んだ。
歌舞伎界屈指の名門である播磨屋の流れを汲み、兄たちとともに幼少期から伝統の世界で生きてきた中村嘉葎雄。伝統芸能の世界に深く根付く独特のしきたりや人間関係は、一般家庭とは大きく異なる厳格なものだった。則子さんは持ち前の明るさと柔軟な社交性、そして芯の強さでその環境を受け入れ、夫が役者業だけに没頭できる環境を整えていった。
夫がロケで何カ月も家を空けようとも、役作りに苦悩して無言のプレッシャーを漂わせようとも、彼女は常に変わらぬ笑顔で家庭を守り抜いた。出しゃばらず、されど夫の誇りを決して傷つけない――その絶妙な距離感と深い愛情こそが、嘉葎雄という稀代の名優を長きにわたって支え続けた原動力にほかならない。