長年、勧善懲悪のフォーマットに安住してきた時代劇の土壌にも、かつてない地殻変動が起きている。起爆剤となったのは、学術出版業界による専門書の一般化と、それに呼応した映像制作業界の意識改革だ。専門の研究者が執筆した学術書がベストセラーとなり、一般読者の歴史リテラシーが飛躍的に高まった結果、旧来の定型的な英雄譚では視聴者が満足しなくなった。
制作現場では、最新の歴史考証が脚本段階から厳密に反映されるようになり、言葉遣いや武具の扱いはもちろん、当時の気候変動や経済構造、衛生状態に至るまでが生々しく再現されている。清廉潔白な善玉と救いようのない悪玉という二項対立は消え去り、誰もが固有の利害関係と生存戦略のために戦う立体的な群像劇へとシフトしているのだ。