日本全国の飲食店において、メニューの「松・竹・梅」といえば「松が最高級、梅が最も廉価」というのが常識です。しかし、元祖豚丼のぱんちょうの暖簾をくぐると、その常識は小気味よく裏切られます。同店では「梅」が一番肉の量が控えめで手頃、ランクが上がるにつれて「竹」「松」となり、最高峰に「華」が君臨するという独自のランク付けが採用されています。
なぜこのような逆転現象が起きているのか。その真相は、創業当時の美しい夫婦愛の歴史にありました。初代店主である阿部秀司氏が帯広豚丼を発祥させた際、苦楽を共にし店を支え続けてくれた妻の名前が「ウメ」さんでした。創業者は「最も親しみやすく、誰もが気軽に注文できる基本の看板メニューに、愛する妻の名前を残したい」と考え、一番最初の基準サイズに「梅」の名を冠したのです。
当時の十勝・帯広は、過酷な原野を切り拓く農業や林業に従事する開拓者たちが集まる街でした。スタミナ源となる高級な鰻(うなぎ)の代わりに、十勝で手に入りやすかった豚肉を使い、うなぎの蒲焼きにヒントを得た甘辛いタレで炭火焼きにしたのが帯広豚丼の歴史の始まりです。「精のつく美味いものを腹いっぱい食べてほしい」という労働者への温かい眼差しと、妻への敬意が生んだ独自のサイズ表記は、90年以上の時を超えた現在も大切に受け継がれています。