インターネット上でまことしやかに囁かれる最大の論点が、物語後半におけるサツキとメイの影が消えているという描写です。メイが行方不明になり、サツキがトトロの元へ走り、ネコバスに乗ってメイを発見した後のシーンでは、確かに地面に落ちるはずの2人の影が描かれていないカットが散見されます。この描写を根拠に、「2人はすでに現世の住人ではなく、魂だけの存在になってしまった」という死亡説が一気に拡散しました。
しかし、この疑惑に対する結論は、制作現場のリアルな証言によって完全に解明されています。スタジオジブリは2007年5月、公式ブログの「ジブリ日誌」において次のように明確な回答を公表しました。
「みなさん、ご心配なく。トトロが死神だとか、メイちゃんは死んでるという事実や設定は、『となりのトトロ』にはまったくありません。作画の段階で、影を描く必要がないと判断したシーンでは影を省略しているだけです。アニメーターが影を入れ忘れたり、夕方の光の当たり方で影をつけない処理を施したりすることは、作画作業上よくあることです」
アニメーション制作において、夕暮れ時や光が拡散する空間、あるいはキャラクターの動きを目立たせたい場合、あえて影の階調を抜く手法は珍しくありません。『となりのトトロ』の作画監督を務めた佐藤好春氏をはじめとするトップクリエイターたちが限られたスケジュールの中で膨大な手描きセル画を描き上げる過程で、画面の明度と演出意図を優先した結果が、皮肉にもオカルト的な誤解を生む引き金となってしまったのです。
もうひとつの死亡説の根拠とされるのが、迷子になったメイを村人総出で捜索する場面で登場する「池に浮かんだサンダル」です。泥まみれのサンダルを見たサツキは、息を切らしながら「メイのじゃない……」と呟きます。このシーンに対してネット上では「サツキは村人を安心させるために嘘をついた」「本当はメイの水死体が見つかっていた」という陰惨な解釈が付け加えられました。
だが、作中の描写を静止画で精査すれば、その説がいかに破綻しているかが明白になります。メイが履いていたのはピンク色の鼻緒がついた水色のサンダルでした。一方、池から引き上げられたサンダルは、全体がピンク色で甲の部分を覆うストラップ付きの靴であり、デザインもサイズも完全に別物です。サツキの「メイのじゃない」という言葉は紛れもない事実であり、妹の生存を信じて駆け出す姉の心理描写そのものでした。